INTERVIEW<2>interview01

 

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川北 覚悟が決まったんですね。その瞬間は覚えておられますか?

 山口 アルバイトの子達に辞めるって言われた時だったかな。自分が採用して、働いてもらえるように教育して、なのに辞められて、一層大変になる。「あぁ誰にも頼れないんだな」って思いましたね。これは自分の責任で最後まで完結させなきゃいけない、と。

川北 「もうダメ、やっていけない」って思うことはありませんでしたか?

山口 うーん。「私ができないって言ったら他に誰がするの?」って考えましたね。同じ事業所にいる仲間に迷惑がかかってしまいますから。だから「ここを何とかした後にやめよう」って思っていました。

interview03川北 それは、すごいです!なかなかそう思えない女性も多いんじゃないかと思います。ましてや、子育て期間10年のあとですから。普通なら「今、大変だから、今逃げ出したい」というような…。

 山口 確かにそうかもしれませんね。もしかしたら私の場合は、生来の性格だったのかな。あとは、子育てをした体験が大きかったのかもしれません。一人目と二人目じゃ育ち方が違いますし、大変だと思っていても永遠に続く訳じゃないことを経験として知っているというか。必ず山は超えられるという確信がありましたね。


 

 山口さんは結局約9年間という在職中に十数店舗の新規立ち上げで実績を残されたそうです。そんな経験を持つキャリアコンサルタントさんを、私は見たことがありません!また仕事で大きな山が目の前に立ちはだかった時のエピソードを「子育て」という女性ならではの体験とリンクさせて語ってくださったことが印象的でした。女性はよく「今こんなに大変なのに!」と短期的な視点で悲劇のヒロインになることが多いと言われます。そんな女性ならではの短所と言われるところを、育児というやはり女性ならではの経験が役に立つと山口さんはおっしゃいました。
なんだか、勇気をいただきます。現在の事業『Woman’s future center』での女性就職支援でもきっと、女性の経験や可能性をよく理解した上でアドバイスされていらっしゃるんだろうな、と思います。同じ女性として嬉しくなりました。


 

川北 退職後にキャリアコンサルタントとして独立し、個人で事業を始め、またその後仲間の方とNPO法人『a trio』を立ち上げられたんですね。キャリアコンサルタントになろうと思われたのはなぜでしょう。

山口 会社員時代、新店のスタッフ育成をする中で「この仕事が自分の天職!」と思ったんですよ。会社でも「水を得た魚のようだ」と言われてました(笑)。

川北 なるほど〜!今でこそたくさんのキャリアコンサルタントの方がいますが、その頃はまだキャリアコンサルタントとして独立開業される方は当時ほとんどいなかったかと思うのですが。ましてや三重でなんて…。

 山口 確かにその頃はキャリアコンサルタントの資格は、食べていけない資格として見られていましたね。派遣業の方が持っておられるとか、キャリアセンターなど学校の就職支援の方が持っておられるとか、そういった資格です。ただ私はキャリアコンサルタント事業を成り立たせたいと。起業にも興味がありましたので、キャリアコンサルタントの講師として起業することにしました。

川北 会社員時代に続き、また新しい道を切り拓こうとされたんですね。滑り出しはいかがでしたか?

山口 それが各所で重宝がっていただきました。行政のお仕事もできる有資格者ということで、フリーター・ニート対策の研修会などに呼んでいただきました。最初のご依頼は東紀州から。忘れられませんね。

川北 個人で活動されていた中で、このNPO法人である『a trio』さんはどのようにして生まれたのでしょう。interview04

山口 親しくしていた行政書士さん、中小企業診断士さんと私で「各々の持つ能力と時間を結集させて、三重の起業家育成をしよう」と始めました。3人で始めたからtrioなんですよ。

川北 そこではたくさんの起業家を育てられたのですか?

山口 そうですね。『ミエワGP』という事業もやらせていただきました。その中で新たな課題を発見したという実感です。

川北 それはどのような課題だったのでしょう。

山口 発展・永続する組織を作り上げる起業家さんを育成するためには、起業家さん一人一人の根っこの部分を強くしていく必要があると思いました。つまり高い志を持つ個人を育成する必要があると。

川北 なるほど!もっと小さい頃からだと!それが、小中学生を対象にした『しごと密着体験』、高校生を対象にした『三重チャレ』へと繋がっていくんですね。

山口 はい。私たち『a trio』のミッションは「三重を『幸せな仕事』をしている人たちでいっぱいにしよう」ということ。それには個人・法人の双方に働きかける必要があると思い、経営者さん・代表者さん向けの事業も始めたんです。「より良い環境を作り組織を強くしましょう」と。現在、両方の事業がバランス良く回っているという状態になってきましたね。

川北 なるほど。その両方の視点から見られる立場の人ってなかなかいないと思うのですが、そこから見ることで気づくことはありますか?

山口 そうですね、いつの時代も人は働いて人生を豊かにしていくわけですが、その働くということが時代に翻弄されるというか、時代と共に変わっていくんだなと思います。

interview05川北 それは具体的にはどういうことでしょう。

山口 例えば若い頃に取った資格が、いつの間にか陳腐化しちゃったという状況をこれまでたくさん見てきました。また例えば20年・30年と勤めた職場をある日追われて再就職に困っておられる状況も。50代の総務部長さんはもう総務部長さんしかできないじゃないですか。そういう相談を受ける度に胸が痛みます。そして、若い子達にはそんな思いをして欲しくないって強く思います。

川北 それで『a trio』さんでは人材派遣とは一線を画した、教育や育成を大切にした事業をされておられるのですね。時代が変わっても選択と決断ができる自分であれば、しなやかに生きていけると。

山口 そうですね。根っこの部分がしっかりしていると、時代が変わっても選択と決断ができ、しなやかに生きていけるとおもうんですよ!ところで、川北さんはなぜ現代日本人は選択と決断ができないと思われますか?

川北 私たちが若かった時代は情報不足で知識を得にくく、選択の余地がなかったということがあると思います。一方で今の若い子は、明らかに情報過多。簡単にたくさんの情報に触れられます。私もインターネットで情報を発信する一人ですが、受け取り側としては情報を取捨選択する能力が必要になってきます。

山口 そうですよね。私たちはそんな情報過多な現代の中で「幸せな仕事をしましょう」と呼びかけ活動しています。「幸せな仕事って何ですか?」「どうやったらそれを見つけられますか?」という問いには、自分で選び取り自分で決めることが大切だとお答えしています。

じゃあどうしたら自分で選ぶことができるか……。私たちは体験ではないかと考えました。知っていることと体験で感じることは違います。やってみて楽しかったかどうか。「こんな風になりたいな」と憧れる人に出会えるかどうか。キャリア教育というのは座学じゃないと考えています。

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山口友美様インタビュー
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