INTERVIEW<3>
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川北 さすがの発想・企画力と営業センス、そして行動力ですよね!尊敬します。ご縁をつないでいくところも!
井上 開業当初は「水耕栽培は安心安全」というテーマで打ち出してきて、それから1年経った今は少し方針を変え、今度は私が至る所に出ています。
川北 確かに『アグリー農園』さんのHPも『nanowa』のHPも、井上さんの笑顔がいっぱい(笑)。
井上 「出過ぎちゃってなんて思われるかな、なんて言われるかな」って思うんですけど、もう出ちゃったから仕方ないです(笑)。
農家でない人が農業を始める、それも、外から来た人が……。どれだけ大変なことなのか、兼業農家で育った私は少し想像ができます。だってね、「農業」は男の世界。それをやり遂げた挙句、売り上げを伸ばして軌道に乗せたと聞き、その裏にどれだけの努力があったかと想像するだけでも気が遠くなりそうです。
水耕栽培のハウスを見せていただくと、確かにここは多くの人が協働する「会社」だと改めて気づかされます。ホワイトボード前で毎朝ミーティングし、自分の仕事を確認してから仕事をスタートされるとか。今日の収穫、出荷分が一目瞭然に見える化されていたり。ハサミなどの作業道具は一人に一つずつ割り当てられ、名前が書かれ、区切られた引き出しに整然と仕舞われています。それらは全て、農作業に来られる障がい者さんのお陰だと話される井上さん。彼らが入って来てくれたお陰で、すごくスッキリしたと。
川北 就労継続支援B型事業所『あぐり工房JOY』の事務局長も、井上さんは務めておられますね。そして障がい者さんを『アグリー農園』さんで受け入れていらっしゃいます。
井上 そうですね。ある出会いがあって、どうしてもこの事業がしたくて、またインターネットで調べまくって、これもまた、いろいろな方のご協力を得て、今日に至っています(笑)。今では、「チームJOY」の皆さんはなくてはならない存在です。それは、品質の高いお野菜を生産する上でもそうですが、企業として成長するためにも彼らの存在が会社を強くしてくれるんです。スタッフみんなの絆を強くしてくれるんです。それぞれ個性が強いので、慣れるまでは大変なときもありますが、ひとりひとりと真剣に向き合うことで私自身の器も磨かれるように思います。
川北 「チームJOY」というのはどういうチームですか?
井上 国の福祉サービスのひとつとして就労支援というのがあります。そのなかに就労継続支援B型事業所というのがあるんですが、「チームJOY」というのは、NPO法人あぐりの杜が運営している就労継続支援B型事業所「あぐり工房」に登録してうちの農作業を手伝ってくれている障がい者の皆さんのことをそう呼んでいます。アグリーがそういった事業所と業務提携し、農作業を委託しお仕事の訓練として障がい者の皆さんに農作業をお願いし、それに対して業務委託費を支払い、わずかですが障がい者の皆さんにも工賃として作業費をお支払するシステムになっています。農業の担い手が少なくなっていて人手が足りない農業の問題と、働く場所が少ない障がい者の皆さんの就労問題、この農業と福祉の連携は双方が抱えている問題解決の糸口として、近年とても注目を浴びている取り組みなんです。
川北 そうなんですね!そういえば最近、いろいろな方がB型事業所を始めたという話を聞きますね。ですが、農業って普通のビジネスとは違って、自然と共に歩むので事業としては難しい気がしますが・・・。
井上 農業もそんなに儲かる職種ではないので、業務委託費として支払われる金額を障がい者の皆さんで分けると、十分な報酬とは言えないと思います。障がい者年金など国から生活の保障をされている方も多いのですが、それだけでは生活ができない方もいらっしゃいます。ここに来る時に、一人一人とそのことを話し合っています。
人によって仕事の能力というのはかなり差がありますが、あくまで訓練なので能力によってもらえる工賃をかえてはいけないんです。国の定めの下こういった取り組みをしているので、私の一存で決められないことが多々ありますが、できる限りみんなが公平にハッピーになれる仕組みを考えていきたいと思っています。そのためには、アグリーがもっと委託費を払えるよう頑張って儲けないといけません。(笑)
川北 国と共に歩んでいる感じですね。
井上 障がい者を受け入るということは、ただ委託費だけでなく、設備投資にもけっこうお金がかかるんです。
川北 そうなんですね。例えばどんな風でしょう?
井上 そうですね、障がいの特性によっては、いつもと違うことが起こったり、設備が不十分だとそれが大きなストレスとなり来られなくなってしまうケースもあるんです。なので、農場をいつも整理整頓し、流れをわかりやすくするための工夫を常に考え、さまざまな改善を行ってきました。健常者であれば必要ないと思われる改善も、気が付けば結果的には会社全体の作業効率UPに繋がり、彼らの存在が会社にとってもたらしてくれるメリットはかなり大きいと思います。
川北 なるほど。それで、簡易トイレにきちっと囲いがしてあったり、いろいろなところに置き場所の名前を書いていたりして、整理整頓されてたんですね。ちゃんとしたものにしようと思えば、かなり設備投資が必要になってきますね。
井上 そうですね、今はまだ余裕がないので、できるだけ手作りでしています!驚かれると思いますが、これら全て自分たちで作ったんです。これらも障がい者の皆さんでする作業のひとつにしているのですが、「居心地のいい場所は与えられるものでなく自分たちでつくりあげるもの」といったことも、作業を通して伝えることができたらって思います。
川北 その一つが六次産業化ですか?
井上 社長ひとりが頑張るんではなく、みんなで頑張る。健常者障がい者関係なく、みんながひとつの目標に向かって会社を支えていく。そんな会社にして、仕事が「遣り甲斐や生きがい」になれば理想なんですが・・・ 理想と現実のギャップってのもあります。理想が高ければ高いほど、スタッフの負担も大きく、つい、障がい者さんのことばかりに気がいってしまい、健常者スタッフが退職・・・という残念な出来事もありました。そんな経験もふまえ、「みんながハッピーになる仕組み」をどこまで構築できるかがこれからの課題、挑戦です。
川北 私も経営者だからわかるんですが、仲間が去るってさみしいですよね・・・・・・・・・的な(笑)
井上 私っていつも自信に満ちているようにみえるらしいのですが、実はめっちゃ小心者で人の目もまぁまぁ気にするんです。これでも・・・(笑)だから社員が辞めるなんて、ほんとうにショック。どうしてかな、自分のやり方のどこがだめだったんだろ~とか、「辞める」=私の経営者としての器失格・・・的な気がしてけっこう落ち込むんですが、これも慣れかな~なんて最近思ってきました。そんなに入れ替わり激しい会社ではないですが、これから規模が大きくなっていけばいくほど、「みんながハッピー」って難しいのかなって思います。
だんだん、「私の会社」から「みんなの会社」になっていくのであれば、その社風に合うあわないも必ずでてくる。それにいちいち傷つき、落ち込んでいたんでは身が持たないですから。会社の成長とともに、経営者も常に成長していかなければ、私が置いて行かれちゃう(笑)
川北 そうですね。悩んだり、落ち込んだり、悲しいことも多々ありますが、ずっと感傷に浸ってはいられない。それは本当にそう感じます!
井上 ただ、慣れるとはいえ、人を大切にしていきたいという思いはかわりたくないですね。今後たとえ辞めていく社員がいても最大限努めて「また戻ってきてね」っていう関係性で辞めてもらえるような器になりたいです。経営者とは、突き詰めれば突き詰めるほど、「人間性を磨く」これに尽きるのかな。
ジョークを交えながら絶えずにこやかにお話してくださいましたが、お給料を支払うための資金繰りのことやスタッフさんが辞めていく時のこと、大変な話もたくさん伺い、身につまされました。その一方で心温まるお話も・・・。とあるイベントを開催したとき、チームJOYの皆さんからサプライズプレゼントとして皆さんの寄せ書きで「ありがとう」の色紙を貰ったのだそう! 真ん中には井上さんとご主人の似顔絵入り。スタッフから「イベントのずっと前から準備してくれていた」と後で教えてもらいました。」と、満面の笑みで教えてくださいました。移住、起業、困難、打破。それらの経験を経てパワフルさを増す井上さん。これから目指すのは「女性だからできる、新しい農業」だそうで……。
川北 今後は、「女性だからできる新しい農業」を?
井上 はい。これまで、私がいろんな方に言われてきた心折れる一言一言(笑)。あるとき、ふと「これだ!!」って思ったんです。今農業は変革の時を迎えています。今はよくても、未来どうなるかわからない。生き残れるのか大企業が乗り出してくる大規模農業に押しつぶされるのか。どうすれば10年先も20年先も頑張って支えてくれている社員の生活を守っていけるのか。人が増え、規模が大きくなるにつれ、その不安が頭をよぎります。
そう、ほかにはなくて私にしかないもの・・・。う~ん、何かしら~って考えて、考えて、考えていたとき、そう、これまで私が不利だと思っていたこと、これを強みに変えていくことがONRY ONE なんじゃないかと。まさに逆転の発想です。
「女のくせに・・・」「主婦が農業なんて、農業を甘くみるな」「押しが強すぎて警戒したくなる」・・・などなど。まぁ、励ましのお声もたくさんいただきましたが、それと同じくらいのハートから出血するありがたいお言葉もこれまでいろいろいただきました。その度に、自信を無くしたり、でも負けずぎらいだから強がってみせたり、いろんな思いがグルグルと巡っていたのですが、最近は、打てる高さだから打ってこられるなら、だったら打てないところまでいけるところまでいっちゃおうかな~とか思ったりもします。
でも、やっぱり目立つって良くも悪くもみんなの関心を引いてしまうのでやっぱり怖いし・・・。ただ、言えることは、女性だからこそ、何も知らない主婦だったからこそできる農業があるって思ったんです。それが、今ではキャッチフレーズにもなっている「女性だからこそできる新しい農業のかたち」なんです。
川北 そうですね。色んな人がいて、「自分はどこに行くのか?」って考える。
井上 私の場合は、目的が「拡大」ではないんです。女性らしくしなやかにいきたいなって思います。男性が手を出しにくいところへ。というわけで、今HPもリニューアルしています。「女性だからできる新しい農業のかたち」・・・。そう、これで行こうと。
川北 その一つが農カフェですね。
井上 そう。主婦のわたしが「ワクワク」することをみんなで「ワクワク」しながら創り上げていく。私が大好きな日本ミツバチも「みつばちの楽園プロジェクト」って名前で(笑)
川北 東海農政局さんとまとめた図にある「女性や若い就農者を増やしたい」という部分については。
井上 農業をやりたいっていう若い方や女性がいらっしゃったら、ぜひ繋がりたいです。私と同じような考えで「ワクワク」する女性がきっといると思うんです。そんな女性にうちで研修を受けてもらい、一緒に夢を叶えていくのもよし、自分の地域に戻ってその人らしい農業をスタートするもよし! 是非、これから、どんどん女性就農者でネットワークを築いていきたいですね。都会にいた私だからこそ「田舎の良さ」が分かるんです。そして「農業の素晴らしさ」も!是非、そんなすばらしさをもっと広めて行きたいな〜と!
〜End〜
Chica’s VOICE
人って、1年でこれだけのことができるんだ……、とただただ感動しました。きっとこれからも、1年後、2年後、すごいスピードで進化されるんだと思います。周辺の里山を眺め「ほら、すごくきれいでしょ? 地元の人には当たり前の風景だと思うけど、よそから来た私にはすごく特別な風景に見える。だからね、ここに『100分の1もくもくファーム』みたいなものを作りたいの!農業のアミューズメントパーク!」とおっしゃった時の笑顔は絶対忘れません。
その里山の畑たち。実は、農家の方の高齢化により荒れていたり、作物を作るのが難しく草刈りだけ・・・という現状だったところを、『アグリー農園』さんが借りるカタチで周囲の農家のみなさんと繋がって行っているんだそうです。「自分達が作物を作っても売らないとお金にならないけど、アグリーが土地を借りたらその人たちに自然にお金が入るでしょ?」ってサラッと言って退ける井上さん。今までの経験の多さを至る所で感じます。そして、彼女が語る夢が叶っていく様子を見届けに、定期的に訪れたいな〜って思っています。
ぜひ今度、みんなで一緒にお邪魔しましょう!
開催する時には教えて!という方は、
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